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ESG投資は社会を変えるのか

2022年になってから運用成績が芳しくありません。昨年は、眺めているだけで含み益が増加していましたが、今年は様子がまるで違います。Yahoo!ファイナンスポートフォリオの資産は減り続けて見るに堪えない状況です。

気分転換に投資信託を検索していたところユニークな名前のファンドが現れました。「世の中を良くする企業ファンド(野村日本株ESG投資)」。あの野村證券が開発したファンドが世の中を良くするとはオクシモロンではないかと思いながら、どのようなファンドか調べてみました。

世の中を良くする企業ファンド

目論見書によれば、「わが国の株式の中から、SDGsや ESGなどに係る社会的課題の解決への取り組みに着⽬し、利益成⻑することが期待される企業の株式に実質的に投資する」日本株のESG投資ファンドです。

ファンドの費用は、購入時手数料は3.3%以内、換金時の信託財産留保額は基準価額の0.3%、信託報酬率は1.584%と、普通のアクティブファンドのそれです。インデックスファンド派には端から対象外のファンドでしょう。

設定日は2021年8月3日と比較的最近です。償還日は2026年となっています。2030年までに達成する目標であるSDGsに着目しながら、2026年に投資目標を達成する積極さはさすが野村證券です。しかしながら、その意気込みに反して運用成績は振るいません。設定時の日経平均TOPIXは、それぞれ27,641円、1,931ポイントで、現在とほぼ同水準(2022年2月18日時点で、それぞれ27,122円、1924ポイント)ですが、同ファンドの基準価額は8,964円と設定来マイナス11%となっています。わずか半年とは言えその運用成績は芳しくないようです。

ESG投資は社会的課題の解決に貢献しない

さて、同ファンドは、「社会的課題の解決」と「投資リターンの獲得」の両立を目指し、ESG投資を行っています。「投資リターンの獲得」の状況は前述のとおりですが、「社会的課題の解決」の手段としてESG投資は有効なのでしょうか。このような疑問に対して、ユニークな視点のエッセイがWSJに掲載されていました。この記事の著者は、ESG投資に対して批判的であり、シリーズで投稿しているエッセイでは、ESG投資によって世界を良くすることはできないという視点で優れたインサイトを紹介しています。

jp.wsj.com

  • 政府の規制強化や意識の高い顧客の選別を見込んで投資先を選定することは、政治的な判断や将来の成長といった予測に賭けをしているだけで、ファンドの投資資金が変化を促すわけではない。また、そのような利益を追求するのは意識の高い投資家だけではなく、事業が有望であれば投資家に良心は必要ない
  • ESGファンドが投資先を選定し、例えば環境に優しくない企業を売却しても、環境意識の高くないオーナーの下で二酸化炭素の排出は続く。本当に社会を変えたいのであれば、むしろ所有者として事業そのものを停止する手法が有効
  • 支出の優先事項を決めてから資金調達方法を決めるのだから、環境事業実行の優先順位決定に投資家は影響していない
  • ESG投資によって資金の流れを正しい目的に向けるよりも、社会にとって悪いことには税金や規制を強化し、良いものに補助金を与えるようにする方が直接的で効果的
  • ESG投資が正当化されるには、ESGが利益につながり、かつそれはまだ株価に織り込まれていない必要がある

上記は、この筆者のいくつかのエッセイで紹介されているユニークな指摘の一部です。この他にも、たばこ企業とのアナロジーなど、示唆に富んだエッセイがあり、この著者のシリーズには一読の価値があると思います。

ESG投資はリターンも期待できない

持続可能性を目指すESGへの取り組み自体は今後も拡大すると考えられますが、私たちの投資判断が世界の変化に貢献するわけではなさそうです。純粋にリターンを求めて投資をするのであれば、一時的な流行で割高になっている可能性の高い“優良”銘柄を投資対象とするESGファンドは選択肢から除外すべきなのでしょう。過去にもESG投資について投稿をしていますが、そこで紹介した山崎元氏のコラムでもこの点が指摘されています。

そのネーミングから、「世の中を良くする企業ファンド」に興味を持ち、ESG投資に対する貴重な学びがありましたが、私がこのファンドを購入することはなさそうです。