じみロード

Every little bit helps.

ESG投資

f:id:jimiya:20210511010648p:plain

ESG投資は儲かるのか

山崎元氏のコラム「ホンネの投資教室」に「個人投資家はESGファンドをどう考えるべきか?」という記事が掲載されていた。ESGと投資行動は結びつけるべきではないという論調である。ESG投資が儲かるのかを考えたときに、過去のある期間のサンプルを以て将来を評価することは難しいとしている。そして、仮にESGが事業価値を向上させるとしても、それが現時点で過小評価されていない限りは投資として成功しない。最終的に、テーマファンドを売り付けるのが「ESG投資」の正体だとしてコラムのテーマ通り歯切れよく切り捨てている。media.rakuten-sec.net

ではESGは儲かるのか

山崎氏とは少し目線が異なるがESG推しのレポートをHarvard Business Reviewで見つけた。投資のヒントになればと思い目を通してみた。

これによれば、ESGは投資家にとって最重要課題であり、インクルージョンや気候変動といった社会的なメガトレンドに沿った長期的目線で経営をする企業は予期しないショックや苦難に対して回復力があるという。責任あると認知されている企業は競合他社と比べて、2020年2月~3月の株式リターンがそれほど大きくマイナスにならなかったことをその証拠として挙げている。また、ESGを向上させる試みは以下のような大きな利益をもたらす点で重要だと述べる。

  1. 投資家はESGパフォーマンスの高い企業に投資するため資本コスト低減につながる
  2. ESGへの積極的な取組と透明性がバリュエーションを向上させる
  3. 取締役に対する株主満足度を高め不信任票や報酬への疑問を抑える
  4. 経営陣のビジョンと計画をサポートする投資家が必要になる

そして、企業のリーダーは自社の評判を落とさない程度にそれらしいことをすればよいという意識を捨て、競合他社から差別化するような戦略的ESGプログラムを構築する必要があるとしている。ここからさらに記事の後半では、アカウンタビリティ、コーポレートカルチャー、業務変革、、、と続くのである。ボトムラインに直結しない戦略系の記事ではお決まりのフレームワークに嵌め込んだ新鮮味に欠ける展開である。

hbr.org

HBRは株式投資のアドバイスを目的とするものではないため山崎氏の記事と直接比較をすることはできないのだが、ESG投資にとって支援材料になるレポートではなかった。出だしのコロナショック時の株式リターンの例もそうであるが、全体的に論理展開が怪しい。資本コスト低減やバリュエーション向上は、投資家はESGを掲げておけば目を瞑って資金を提供するが多くは求めないという主張である。ESGで株主満足度を高めるのもおためごかしでしかなく、ESGを理解する長期投資家が必要になるというポイントはメリットですらない。

競争戦略のくだりについても、要はESG自体が競争力の源泉となるものではなく、そうなるようにESGプログラムをデザインしなければ経済的な果実は得られないと言っているに過ぎない。そもそも、競争戦略は事業資産や企業カルチャーに裏打ちされたものであり、好きな領域をピックアップして他社と差別化できるようなものではない(それができるのであれば簡単に模倣されてしまうのだから差別化要因とはなり得ない)。

期待して読み進めてみたものの、「ESGって儲かるの?」という問いに対しての答えは見つからず、このレポートの筆者自身もESGに対してまるで腹落ちしていないのではないかと勘ぐりたくなる内容であった。

ESGで投資判断はできない

HBRのレポートはESGが企業価値向上に直接的に寄与することは難しいことを意味している。ここで紹介した記事以外でもESGが儲かるという調査は見たことがなく、せいぜい財務上重要なESGに積極的に取り組む企業はそうでない企業と比べて財務的な成績が良いというものである。もちろん、ここに因果関係があるのか単なる相関なのかは明らかではない。その他の調査も投資家のトレンドに着目したものばかりで、ブラックロックに代表される巨大ファンドも重視しているのでESGへの圧力は今後も高まるぞ、というストーリーである。そうは言ってもファンドのESG戦略は、特定業種の除外、ESGスコアによるスクリーニングと相対評価もの言う株主といったものでしかなく、投資リターンとの両立が実現できるわけではない。それができるのであればESGの制約を取り除いても実現できるはずだが、長期的にインデックスを上回るアクティブファンドはほとんど無いというのが定説である。

一方で、”絶対的に正しい”取組であるESGに企業が正面から「NO」と言えばこれは100%炎上案件である。機関投資家や活動家の顔色をうかがいながらサステナビリティレポートを作成するためだけの取組は事業継続のためのコストでしかないのであれば、投下資本に対して十分なリターンを生まないのは自明である。グリーンウォッシングのポイントを軸にした投資戦略が一時的流行として資金を集めることはあっても、長期的に成功するとはなかなか考えにくい。